―おまえは覚えているだろうか。

昔の記憶。

中にいた者は相当驚いたのだろうか、 しりもちをついたみたいだった。
「、、、ッ!」
中が暗くて何も見えないのでとりあえず、電気をつけた。
つけた途端互いにあっという声を洩らした。
「斎藤、、、。」「!」
なんとそこにいたのは 紛れもなく 三番組組長斎藤一であった。
「何で、俺の名前を知って、、、」
「斎藤!」
俺は夢中で彼の名前を呼んでいた。
彼が俺のことを覚えてないということを忘れて。
「なっなんなんだ!あんたは何故、俺の名を知ってる!」
はっと気付き、当然といえば当然の反応。
俺も一応は打開策を考えていたが。
「まぁ、一応明日からおまえの担任だからな、、、。」
あははははと笑ってみせた。
彼はなるほどと感心していたが。そんなわけないだろうが、阿呆。
前世でも現世でも変わらない斎藤の天然っぷりについ顔が緩む。
なるべく、顔が緩まないように冷静を保とうと己をせいした。
やっとの事で正気に戻り 疑問を投げ掛けてみた。
「おまえこそ、何でここにいるんだ?生徒は午前で完全下校なはずなんだが、、、。」
その言葉を聞いた途端、彼の表情は一気に曇った。
―なにか、聞いていけないことを聞いたのだろうか。そして、彼は強引に話を変えた。
「電車でいつも俺の真っ正面に座っている方ですよね?」
あぁと短くいい、そして更に斎藤は話を続けた。
「やっぱりそうでしたか、、、。そしてそのネクタイは薄桜学園のもの、、、。」
確かに。教師のネクタイは今では珍しいが学校指定の青と黒のストライプのものだった。
「そして、剣道で有名な薄桜学園の剣道部顧問の土方先生ですよね!!
あ、俺、あんたに憧れてこの学校に来ました!」
ありがとうよと告げてみると斎藤の頬が少し紅くなった気がした。
こいつは前世でも現世でも俺を慕ってるのか。
そんな彼に苦笑を浮かべた。
本当に外見は変わっていたとしても中身はあの頃のまま、全くと言っていいほど変わっていない。
あのかわいい斎藤のままだった。
昔と変わらないあのフサフサな猫っ毛。
深く蒼い切れ長の目。
紺のベストに映える絹の肌。
何もかもがいとおしい。
見惚れていると斎藤もやっとこちらの視線に気づいたらしく、下に顔を向けた。
そういえば大事な事を忘れてしまっていた。
なぜ、斎藤がここにいたのか。
そして何をやっていたのかを聞かなければならなかった。
――――――――――――「なぁ、斎藤。」
彼はびくんと身構えた。
これから聞かれる事に 目を反らすように キュッと目を瞑っていた。
「は、はい、、、。」
「お前はなんでここにいたんだ?」
ほら、また下向いた。
と思ったらフワフワの紫色の髪の間から見える耳が朱みを帯びていた。
そんな彼の頭に俺の手を ふわりとのせ、そして優しく撫でた。
前世で彼の頭を優しく撫でれば 彼は嬉しそうに微笑んだ。
それは今にも受け継がれているらしい。
さっきまでくらい顔をしてたにも関わらずふわりと笑う。
そんな笑顔にもまた惹かれてしまう。
「あ、すいません。 これから言うことは理解できないと思うんですけど、、、。」
彼は恥ずかしそうに 少しずつ言葉を紡ぎだした。
「なんだ?」
「あの、、、。桜の下で誰かが待っている気がして、、、」
そういうと校庭の桜を指差した。しかし、桜の下には誰もいない。
「教室から見れば遠くまで見られるから、、、。」
何故か最後の方になると あの凛とした声が涙声に変わっていった。
「斎藤、、、?どうした?」
何故か泣いている斎藤。
俺が泣かした、、、の、か?

くすん、くすん。

―女子かお前は。
昔からそうだったなぁと思って。
昔から幹部や隊士の前では冷静沈着でほとんど人前で話すことはなく
だから近寄りがたい、とみんなに言われていた。
しかし、本当の斎藤は違った。
人と話したくない、とかではなくてただ人と話すのが苦手なだけ、だ。
能面などと言われているがそんな事はない。
彼は人前であまり表情をこそ変えたりはしないが
嬉しい時には口許が緩み、声も少しだけ明るくなる。
平助や新八のように 大袈裟な反応こそしないが彼だって驚いたりする。
女子のように泣いたりだってする―。

くすん、くすん。

「あ、あんたを見てるとなんか嬉しいのか悲しいのか涙が溢れてきて、、、! とま、ら、、な、い。」
溢れてくる涙を一筋拭い、抱き締めた。
「泣くな、斎藤。」
斎藤がこちらを向き驚いたような顔をする。
―何故、、、?
そう顔に書いてある気がした。
顔こそは昔の斎藤なのに こいつは俺の事を覚えていないのか。
―寂しい。
俺を思い出してほしい。
俺をまた愛してほしい。
願いをこめ抱き締めながら次の言葉を放った。

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