君と幸せ。

ー伸ばしてはいけないとわかっているのに伸ばしてしまうこの手。

「斎藤、おまえの家って妹いたか?」
「え、、、?いえ、俺独りっ子ですけど、、、。」
彼は聞きにくそうに俺をちらっと横目で見ながら言った。
「斎藤、、、。これお前のか?」
そして、彼の後ろから取り出される茶色の物体。
「ごんた!」
俺は反射的に叫んでしまった。
「あっ、、、。ごんたって言うのか、、、。この熊。」
そう笑いながら 土方先生はごんたを優しく撫でた。
俺は恥ずかしさのあまり 俯くことしかできなかった。
―よし。今日、切腹しよう。
「あっあの、、、。」
「なんだ、斎藤?」
相も変わらず、まだ熊を撫でている土方先生。
勇気を振り絞り聞いてみる。
「男がテディベア持ってるなんて、、、。引きましたよね、、、?」
その言葉を聞いて土方先生は盛大に笑い飛ばした。
「別に引いちゃあ、いねぇよ。ただかわいいなぁと思ってなおまえの事。」
熊を撫でていた手が 俺の頭に乗っかった。
その瞬間。
自分の頬が一瞬にして熱くなるのを感じた。
「あっはははは!真っ赤じゃねぇか、おまえの顔! おい、斎藤それよりこの熊持て。」
半ば無理矢理ごんたをもたされ狼狽える。
「こっ、こうですか?」
何故か上目遣いなこいつ。
いつどこでこんなこと 覚えてきやがったんだこいつは。
―ヤバい。かわいい。
必死に理性を保とうとしていたが、その姿は俺が理性を保つのにギリギリの線だった。
「あっどうされたんですか?土方先生?」
心底心配そうに聞く彼。
―だから、その上目遣いやめろ。
パジャマに大きなテディベアときちゃ大抵の男なら
もう理性は粉々になって 今頃押し倒しているだろう。
しかもその相手がこの斎藤一ときちゃあ、、、。なぁ。
斎藤は自分では気づいてないんだろうが
女はもちろん男にももてる。
女のような体つきをしているが
剣道の腕はたいていの奴なら一瞬で倒してしまえるほど 強い。
そんなことを考えていて更にこいつを手に入れたいと思った。
しかし、俺はこれでもこいつの先生。
そうだ、俺は教師だ。
そして、こいつは俺を尊敬している生徒、、、。
こいつの心をズタズタにするわけにはいかないが。
しかし、俺は聞かずにいられない。
「なぁ、斎藤。」
「はい。」
また上目遣い。本当にやめてほしい。
「俺の事好きか?」
「はい。」即答された。
「いや、そうじゃなくて、、、。本当に心の底から俺の事が好きか?」
さっきとはうって変わって恥ずかしそうに目をふせる。
顔がほんのり紅くなった。
「なぁ、斎藤。」
答えてくれよ、という言葉は飲み込み返事を急かす。
「あっ、あっ、俺は、、、。」
なかなか言葉を紡ごうとしない。
「なぁ、斎藤。」
俺は更に追い討ちをかけた。
彼の首筋に口を寄せ、ほとんど息のかかる距離で囁いた。
「俺はお前を俺の恋人にしたいと思ってる。」
「こい、、、び、と?」
斎藤はその言葉を知らない子供のようにつぶやいた。
何いってんだ、俺。
しかし、止まらない。
確かめなければ、終われないそんな気がした。
―奴の意見を聞けば、、、。俺のこの気持ちにも終止符をうつことができる。
もうこの、もやもやした気持ちともおさらば、だ。
斎藤の身体がほんの少し跳ねた。やっと言葉の意味を理解したのだろう。
「あっ、あのっ、俺は、、、。」
顔を真っ赤にさせていい淀む姿もひどくいとおしく感じた。
「何だよ。」
大人気ねぇなと思いながら。彼に余裕を与えない。
彼は深呼吸をひとつ。
すー、はー。
こちらをしっかり見据えて「土方先生。」
妙に凛とした声。
なにかを決心したようなそんな声だった。
「―俺は土方先生を愛しています。」
彼の蒼深い目には 決意が固まっていた。
「俺は、前から土方先生が好きでした。」
「でした、って事は過去形か?」
―沈黙が流れた。
何故そこで黙る。
「―今は好きじゃないのか?」
―また沈黙が流れた。
「―あ、いや、、、。今もずっと好きです、、、。」
さっきまでの威勢はどこにいったのやら。
「どうしたんだよ、急に、、、。」
もごもごと下を向きながら言った。
「あっ、いや、急に、恥ずかしくなってしまって、、、。あっ、あすいません、、、。」
耳を見てわかるが 顔の方も相当紅くなっているのだろう。
「なぁ、斎藤。ちゃんと言ってくれよ。」
彼のふわふわした髪に手をのせて、
「俺はお前をずっと前から愛しているんだから。」
ふっと微笑み斎藤を見る。
ー彼の口が動いた。
「俺は、土方先生の恋人になりたいで、、、」
その最後の言葉が言い放たれるより早く俺は奴の口をふさいでいた。
だってその先はもう知っているから。
初めての斎藤の味はひどく甘くそして優しく感じた。
―俺はその日、世界で一番幸せな奴だと思った。

最初はテディベアと斎藤さんを出したくてかいてたらこんなことに、、、。
SSLの土方さんは教師として、一人の男として葛藤している感じで描きました。
途中から斎藤さんから見た視点から土方さんから見てる視点に代わってたりします。