甘め 土斎 お仕事副長×寂しがりやはじめちゃん。




―俺の我侭もこの人なら聞いてくれると分かっているから、つい無理を言ってしまう。


愛しい人と握り飯。


秋の香りが漂う今日この頃。

空を見上げれば、とんぼが飛んでいて。

知らず知らずのうちにふっと笑みが零れた。

俺はというと副長の部屋に笹の葉に包まれた握り飯を持って廊下を足早に目指しているところだった。

部屋が見え、廊下に膝を着き一声かけた。

「失礼します。」

「おう、入れ。」

と言われたのを合図にカタと障子を開けると俺が好いてやまない人が拝むことが出来た。

まるで女性の様な黒く艶やかな長い髪。

黒髪に映える絹の様な白く滑らかな肌。

そして長い睫毛で隠されている紫紺の瞳。

そんな愛しい人の姿にしばし見惚れる。

「どうした、斎藤。」

はっと気付き用件を述べた。

「あっ、はい。すいません!少し気が散ってしまって…それより、御飯お持ちいたしました。」

と言って笹の葉に包まれた握り飯をそっと置く。

今日は本当は新八の食事当番だったが新八に頼んで食事当番を変わってもらった。

理由は副長に俺の作った握り飯を食べてもらいたかったから。

やはり自分の一番愛しい人には自分が作ったものを食べて欲しい。

そんな思いを込めて握り飯を握った。

「あぁ、すまねぇ。もうすぐでこいつが終わるからそこに置いといてくれ。」

副長は、一度も此方に見向きもしない。

ただただ、眉間に寄せられた皺を更に深く刻みながら書状とのにらめっこ。

―俺よりその書状の方が大事なのだろうか。

俺の中でぐるぐると渦巻く黒と白の感情。

そんな副長の様子に知らず知らず溜め息が出ていた。

―はぁ。今日は天気がいいから

せっかくだし中庭で二人で食べようと思ってたのに。

またはぁ、と溜め息をつくと副長はゆっくりと此方を向き 相変わらず眉間に皺がよったまま、しょうがないなと言う風に笑った。


「お前は本当、しょうがねぇな奴だな。」


「は?」


その言葉の意味がわからなく疑問符を浮かべる。


「あ、いや。 お前は本当に寂しがりやだな、と思ってな。」


と言って俺の頭に手を置き髪の毛をくしゃくしゃにする。


「この書状書き終わったらもう今日の仕事はなかったからな。 午前中に終わらして 午後から お前と二人で、いや、二人だけで京の町に出かけようと思ってたんだよ。」


そういうとまた笑った。

俺は副長に、土方さんに思われてることが嬉しくて。柄にもなく、抱きついてしまった。


―あぁ、土方さんのにおいだ。


やわらかくて、ふわふわしてて俺を包んでくれるような優しい香り。

そんな香りが嬉しくて、 更に強く抱き締めた。

「副長、今日の町に出る前に俺はあんたと御飯が食べたいです。」


俺の我侭もこの人なら聞いてくれると分かっているから、つい無理を言ってしまう。


―やっぱり。


察してくれたのか、 はたまた偶然なのかどちらかはわからないが、 ふと外を見て、


「今日はいい天気だな。 終わったら、外で食うか。」


「はい。」


と俺も自然と笑みが零れた。

副長は俺を抱きながら 着物を腕捲りする。


「じゃあ、ちゃっちゃっとやらないと、な。 もちろん、お前も手伝ってくれるんだろ?」


と意地悪な笑みを浮かべた。

「はい。もちろん、喜んで。」


とにっこり笑って返してやれば 副長もにっこり笑って。

この人の笑顔が


この人の存在が


この世界で唯一俺を幸せにしてくれるという事 に今日改めて気づかされたのであった。





久々の短文!
最近はついつい長くしてしまってさ〜。
これの続きで何個か増やしていけたらいいな、みたいな〜。

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