シリアス 土斎 パラレル




―またあの夢だ。


孤独の果ての小さな光。


―またあの夢だ。



嗚咽が走る様な 幼き頃の記憶。



まだ俺が一人でいるのが怖かっただった時代―。











空を見上げると ほんのりとした紅に塗り替えられた雲。

近くの水田の周りを飛ぶ蜻蛉もまた雲と同じ様に紅かった。

子供逹の影は夜の暗闇を予感させる様だった。

俺一人を囲み 手を繋ぎ廻る子供。

俺はただ廻る子供の中心に座り、暗い闇に顔を伏せる。



「後ろの正面だぁれ?」



子供逹は廻るのを止め俺に問うた。



『心太君。』



俺が言葉を口にすると 皆は恐ろしい物を見るような目で俺を見る。

そして口々に言った。



「また当てやがったよ。 こいつ。」



「気持ち悪ぃ。 後ろに目でも ついてんじゃねぇのか。」



「だって、これで10回目だよ…。あたし、怖い。」



一人の男の子が弾きだしたように言った。



「あ、そういえば僕、お母さんに ゛一君と遊ぶな゛って言われてたんだっけ。」



「あ、それうちも!」



「俺んちも!呪い殺されるぞ!って父ちゃんが…。」



『…俺は、俺は人を傷つける力なんて持ってない…。』



そういうと一斉に 皆が此方を向いた。



「うそつき。」



一人の女の子が言った。



「かよちゃんだって一君が消したんでしょ? お母さんが言ってたもん。」



―皆の視線が怖い。



突き刺すような、咎人を見るような目。



『…違う。』



そういって真実を告げようとしたが…止めておいた。

俺だけが知っている真実。

この事実を告げたら きっと彼女は悲しむだろう。



―嫌われたくはない。

何故なら一人になるのが 怖かったからだ。



―嫌だ…。

一人になりたくない…。これ以上一人になりたくない。

一人になると寂しさのあまり嗚咽が走った。

だから、しがみついた。

嫌がられても、利用されても、例え危険な目に遇わされても―



「何が違うのよ! 一君の人殺し! かよちゃんを返してよ!」



と俺を激しく揺すってきた。



―真実は…。



あんたの母さんが殺したんだよ。

或る月夜の晩。

俺は勝手場に 忘れ物をとりにいくため 外に出ていた。



「―んっ!っふ!」



何処からともなく 何処かくぐもった子供の苦しそうな声が聞こえた。

勿論、恐怖心もあったが、その頃は子供だった故 恐怖心より好奇心が勝ってしまった。

何気なく声のする方へと歩んでいってみると、 長い髪の人と子供が一人。

そして、その長い髪の人の手には鈍色の包丁が握られていた。



「ごめんね、かよ…。

うちには2人も養っていくお金がないの!

だから…お母さんはね。

必死に考えたの。

どっちが必要か。

どっちの方が価値があるのか。

そしたらね、さちの方が頭はいいし、かわいいし、

それに何より、高く売れそうだから。

ごめんね、かよ…。

さちのために…。

私のために死んで…!」



暗くてよく見えなかったがきっと子供の目には 絶望と恐怖が映し出されていたのだろう。

そう言った瞬間に 子供の喉元 目掛けて包丁が突き刺された。



―ブシュ。



紅い液体が辺り一面を染めた。

凄く生々しく赤黒い液体。液体と共に子供は地面に落ちた。

地面に落ちた子供の目にはさっきまであったであろう絶望や恐怖なんてものは 映し出されていなく、

代わりに漆黒の闇が映し出されていた。

さっきまで人間として 動いていたはず、だった。

さっきまで息をしていたはず、だった。

なのに、今俺の目に映るのは紅く染まった少女の死体。



―ただの油と水の塊。



そう理解した瞬間、 とてつもない嗚咽に襲われた。



『うぇ、うぇ。』



目の前の人物がいなくなった。



―俺は一人…?



俺はこの世界で 一人になったと錯覚した。



―一人は嫌だ!一人は嫌だ!



堪えきれなくて思わず、 嘔吐した。

さっきの状況を、 人が死んだという事実をも吐き出したかったから。



「誰だ!」



嗚咽の音に気付いたのか、長い髪の人はひきつった表情を此方に向けながら近づいてきた。



―このままじゃ、殺される。



必死に逃げた。

後ろからは包丁をもった長い髪の人が追い掛けてくる。

月夜の光でちらと見えた顔は。

かよとさちの母だった。



―食減らし、か。



ちょっとした用に出るだけだと思っていたので 草履なんか履いちゃいなかった。

暗い森の中 ただただ己の命を守るため走った。

足は石や木の枝が突き刺さりじんじんと痛んだ。

俺は一人暗い森の中を走った。

そして、 また俺は一人だった。



―寂しい、怖い。



また一人になった。



―怖い、怖い、怖い、怖い!



また喉元に苦い液体が溢れてきた。



『うぇ、うぇ!』



全てを吐き出した。

気持ち悪くて 気持ち悪くて仕方がない。

自分に集中し過ぎて後ろの気配に気づけなかった。



「何してんだ、おめぇ。」



後ろから突き刺すような声が掛けられた。



『…!』



振り向くと 紫紺の瞳、長い髪の人。

その人を見た瞬間、 背筋が凍った。



―殺される…!



必死で逃げようとした。

…が、



「おい!待てよ!」



と襟首を捕まれ中に浮かされた。

怖くて怖くて必死に命を乞うた。



『俺は何も見てません! 俺は何も見てません! 俺は何も…。』



言葉の途中で口を塞がれた。



『…!』



大きく硬い手。



―もしかして、さよとかよのお母さんじゃない…?

2人のお母さんならば、もう少し華奢で柔らかい手をしているはずだ。



「おいおい。

何を誤解してるんだか 知らねぇが 俺はお前を殺そうなんて思ってないぞ。」



きゅっと瞑っていた目を そっと開いた。



『僕がさっきの…見ちゃったから だから、殺そうとしたんじゃない…の?』



そういうと頭を優しく撫でられた。



「ったく、さっきのって何だよ。

だから、そんな事考えちゃいねぇって言っただろ。

俺はただ新しい薪を取りにきただけだよ。」

と言い思い出したかのように俺に問うた。



「お前、殺される殺されるって言ってた けどどうしたんだ?」



長い髪の人は問いかけた。

俺はさっき見た 真実を全て男に吐き出した。



「そんな事があったのか…。 お前も大変だったんだな。」

とさっきよりも優しく撫でられた。



『俺はどうすれば…?』



というとその人は うーんと考えるような仕草をしながらこう言った。



「そりゃ、とりあえず俺じゃないって顔して戻ってやんなきゃ駄目だろ。」



?を頭に浮かべると



「お前の命のためだ。 今すぐ戻ろう。」



と強く俺の手を引いた。



『俺のために何であんたがそんな事するんだ…?』



「何となく、な。

それに今戻らなきゃ お前が見てたってわかっちまうぞ。

ほら、早く。」



『あぁ…。』



暗い森の中をひたすら走った。



―こんな人間は初めて、だ。



俺は今まで 人に優しくされた事なんて片手で数えられる程しかなかった。



「何だ、泣いてるのか?」



気がつくと雫が溢れていた。



『だ、だって、俺…

他人に優しくされた事 なんて、数える程しかなかったから…。

それに今までずと…、ずっと一人だったから…、俺…。』



「なんだよ。そんな事かよ。」



というと 優しく包まれた。

昔懐かしい母のような、 はたまた力強い父のような優しい抱擁。



「時々、来いよ。待ってるから。」



そう言われた。



―嬉しかった。



初めて 俺を一人の人間として 認めてくれた。

普通の人間のように 優しくしてくれた。

俺が一人閉じ込められた鳥籠から出してくれた。



『また、来、ます。』



涙で上手く言えなかったがまた逢う約束をした。

貴方が俺を必要としてくれた。

貴方が俺を助けてくれた。初めて人を信じる事を教えてくれた人。

一生尽くしても尽くしきれない想い。

どんなことをしても 償えないとわかってる。

その日から 俺は貴方に忠誠を誓ったのであった。



゛例え、命に変えても貴方を守り抜く゛と。










忠犬一君始まり、始まり。だって、一君だもん。

しょうがないじゃん。

てか、最初の方に書こうとしてた内容とすっごくずれた。

ごめぬ。

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