現パロ 土斎 シリアス




―あんただけがいないのは何故…?


貴方に捧ぐ一滴。


俺は自分の過去などに 興味はなかった。


というか、今思えば過去を知るのがその時までは怖かったのかもしれない。





俺は歴史の授業が大嫌いだ。

歴史の授業は俺にとってはとても憂鬱で仕方がなかった。

空を見上げ、ただ流るる雲の行方を追う。

教師が嫌いな訳ではなく、反抗したいという気があった訳ではなく、ただ歴史が嫌いだった。

俺だってちゃんと受けようとした事はあった。

しかし、その度頭を誰かに殴られているような酷い頭痛に襲われた。

暇な時間、憂鬱な授業。

そのうち、歴史の授業に出る事さえ億劫になり、出る事をやめた。

過去の事に一々学ぶ事なんてない、そう思ってた。

それに他の授業はちゃんとでているし、

高得点をも獲得している俺は、歴史の一つ位落としたところで、どうって事はなかった。
しかし、ある時俺は何故自分が歴史が嫌いなのかわかった。

昼休み、次の古典の授業のため、予習をしていると

数人の女子が俺の元へとやってきた。

俺の机に手をつき



「ねぇ、一君!

私、日本史わからないの〜!ほら、一君も日本史取ってるでしょ?

今度の範囲って主に新選組じゃない?

男の子って新選組とか好きなんでしょ…?

ねぇ、だから教えてよ!一君!」



猫なで声の女子の声がどんどんと遠ざかっていく。



「新選…組…?」



妙に聞きなれた言葉。

頭の中から何かとてつもなく大きいものが流れ出してきた。

頭が割れるように痛い。

失っていた何かが俺の中に流れ出した。



「新選組…?」



そうだ。

俺は思い出したくなかったんだ。

過去を知りたくなかった

だから、忘れ去ったんだ。



大切な戦友を、大事な人を、幕末という時代を。



だから、俺は拒んだ。

自分自身を守るため、 自分のちっぽけな自尊心を守るために。



「すまない、女子!

俺には今すぐにやらなければならない事がある!」



「一君!何処行くの!」



叫ぶ女子と教室を後にして俺は図書室へと駆け、向かった。図書室には今俺しかいない。

歴史の本が置いてある棚を片っ端から漁り、新選組の事が書かれている本をひたすら読み漁った。



「新選組…新選組…。」



そこには、自分の名前が綴られていた。



―やはり…、そういうことか。



「沖田総司…?」



やたら、俺に構ってくる あの問題児の名前か。

奴は知っていたのだろうか。



「藤堂平助…。」



俺の部活の後輩の名前だ。

奴も奴でやたら俺に絡んできた。



「原田左之助…、永倉新八…、近藤勇…、山南敬助…!」



皆、この学園にいる教師の名前。

だんだんとよみがえってくる記憶。

しかし、俺の記憶の中のほぼ全体を占めていた人がいない。



「土方…歳、三…?」



この学園にいない人が一人。

俺が前世で最も愛し、敬愛していた人物。



「銃弾が腹部を貫き落馬…味方が近づいた時には既に絶命……?」



―嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!



そんなのは嘘だ!

気づくと視界は雫で霞んでいた。

何冊か本を読み漁るが 事実は変わらなかった。



「流れ弾にあたり、絶命…。」



あの人は死んでしまったのか。



いや、俺だって死んだのに。



総司や平助だってみんな死んだのに。



なんで、あの人だけここにいない?



その事実を知った時。

俺が何故歴史が嫌いかが分かった気がした。

この事を、この事実を歴史によって無理矢理教え込まれたくなかったんだな、と。

そして、副長の末路を、そして副長が今この世にいないことを。

俺は知ることの恐怖に苛まされていたんだとようやくこの時気づいた。

それに気づいた時、全てが俺の中に入り込んできた。

初めて大きな声をあげて泣いた。

ただひたすらあの人に届くように、と。

せめてもの懺悔の涙を。

天高く届け、届けと。



貴方に捧ぐ一滴。









日本史の勉強をしているときにふと思いついた文章。

一君は学びたくなかったんです。

歴史に出てる人ってきっと歴史を学びたくないんじゃないかなと思って。

一君だってそこは同じです。

歳様話上、出せなくて本当にごめんなさい。

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