シリアス 土斎 羅刹ネタ




―お前が大好きな副長様だぜ。


血紅色に染まりゆく。


京の暑い日差しの下

俺の率いる三番組と平助率いる八番組は京の街を巡察していた。

街を歩いていると 幾らか身体に違和感を覚えた。



―今日は今朝からやけに身体がだるい。



そんなのは気のせいだ、と自分自身を奮い立たせてみるも気分は変わることはなく

、むしろ悪化していった。

頭が割れるように痛い。

目の前が白くぼやけ 身体が今までにない以上に火照る。

足取りも覚束なくて ふらふらと俺が道を歩いていると隣にいた平助が尋ねてきた。

「一君、大丈夫? さっきからふらふらしてるみたいだけどさ…。

もし、具合悪かったらあっちの茶屋で少し休んでなよ。」

平助は俺の瞳を心配そうに見つめていた。

「だ、大丈夫だ。 ただ少し目眩がしただけだ。

それに今は隊務中だ。

これしきの事で副長に迷惑をかけるわけにはいかん。」

「一君。俺、こっち。」

後ろを振り向くと平助がぼやけてみえた。

「平助…、すまない。

やはり、今日は何故か調子が悪い…

悪いが、俺はここで少し休んでから行く。

すまないが、俺の隊の者を連れて先に行っててはくれぬか?

俺は後ですぐ追いかける。」

また、視界が揺れる。

「一君、大丈夫?て、あっ一君!」

平助が斜めに倒れていく。

と同時に俺の視界は漆黒に塗られていった。

暗い視界にただ遠く平助の声が響き渡っていた。

意識を手放し、気づくと

上には見覚えのある木目の天井。

何故か、俺は ふかふかの布団の中にいた。

ここが何処か知りたくて起き上がろうとするが先程倒れたせいか背中に鈍痛が走った。



「痛っ…。」



と言葉にすると、 目の前の障子が横に動いた。

障子を開けた主は 片手には大きな桶。

そして、片手には土鍋が握られていた。

「おう、やっと起きたか斎藤。

お前、背中打ったんだろ。

ったく、無茶な事しやがって…。

今日はゆっくり寝てろよ。」

と俺を気遣う様に 一度起き上がった状態からゆっくり布団に押し戻された。

上から心配そうに俺を覗く紫紺の瞳。



「副…長?」



ぼーっとした頭で相手を確認しようとするとくすりと笑われた。

「おぉ、忘れちまったのかよ。お前が大好きな副長様だぜ。

ったく心配させやがって…ガキか、てめぇは。」

見知った顔、見知った声が俺のすぐ上にある。

すいませんと言うと 副長は ふわりと抱き締めてきた。

「俺に、あんまり心配かけさせんな。」

というとまたぎゅっと抱き寄せられる。

あまりにも温かく、優しい感触に背中の痛みなど溶けてなくなっていった。

紫紺の瞳が俺の瞳を捕らえた。

だんだんと頭が冴えていき、状況を理解し始めた。

「申し訳ありません!

今日の巡察の件については俺の不注意による失態です。

他の隊士は一切関係はありません。

ですから、明日は 俺が2番組と京を見回ってきます。」

と言うと副長は苦しそうに笑った。

「な、なぁ、斎藤。

無理しないで、くれよ。

これ…い、じょう俺に、この土方歳三に心配をかけさせないでくれ…。

お願い、だ。

お前が、その小さい背中でそうやって…、

そうやって自分一人で何でも背負い込もうとするから…。

俺は、その度に心が…、心が、砕けそうになるんだ…。

少しは俺を頼ってくれ…。俺はお前の恋人なんだから…。

俺は…お、前を失い、たくない…。」



「副長…。」



いつもの強気な副長の姿など何処にもなく、 ただただ俺を求め震える腕。

その腕はただただ空を 掴んでいるようで 実感のないものだった。

「大丈夫です。副長。

俺はここにいます。

あんたのすぐ隣に。

心配なさらないで下さい。俺は何処にも行きません。

あんた以外を好きになることもありません。

だから、心配なさらないでくださ…」

最後の言葉を紡ごうとした瞬間、副長の唇に飲み込まれた。

「俺の運命の人はお前ただ一人だ、斎藤。

だから、だからお前が一番大事だ。

誰よりも、何よりも。

だから、もっと自分を大事にしてくれ…。

髪だって、こんな白く…。無理しないでくれ、本当に…。」

副長が言った言葉が解せなくて問い返す。



「俺は今… 羅刹の姿なのですか…?」



と恐る恐る聞いてみると 副長はゆっくりと縦に首を振った。

ほらよ、といって渡された漆塗りの椿模様の鏡を見るとそこには髪の白い自分がいた。

「……。」

暫く黙っていると副長は 何かを決心したらしく、小刀を唇に当て、 何かしているようだった。



「副長…?」



副長が何をしたいのかわからず、じーっと副長の唇を見ているとやがて、唇から紅い液体がおちてきた。



―血…?



その紅い液体を見た途端。

体が自然に動いていて、 自分の血が沸々と燃えたぎっていった。

それと同時に胸の動機も速まっていった。

気づくと副長の上に跨がっていて…。

我にかえり、副長から降り額を畳に擦りつけながら 土下座した。



「すいません!すいません!俺とした事が!」



と何度も言っていると 副長の手が俺の顎をそっと持ち上げそして激しく口づけられた。



「ん、っふ。…ごく。」



喉が大きく波うった。

本能的に喉が相手を、いや相手の血を欲しがる。

もっと欲しい、欲しいと望む傲慢な俺が今、自分を支配している事を悟った。

今の俺は愛しい人から口づけを落とされて 喉を波打たせてるわけではない。

ただ副長の血を欲しがって喉が波打ってるだけなのだ。

そう思うとじわりと涙が溢れてきた。

愛しい人を今はただの紅い液体を与えるただの個体にしか見えない、それが悔しくて。

でも、それと裏腹に 俺は尚も副長の血を欲しがっていた。

それを見兼ねてか 副長は尚もこんな俺に優しい言葉をくれた。

「斎藤、気にするな。

お前は俺の事なんて気にする必要はねぇ。

今、お前はただ 自分のために血を飲め。

遠慮なんてするな。

俺達は恋人同士だろ?」

と言いまた唇に小刀を持っていくと 鉄臭い匂いが部屋中を満たしていった。

また、その匂いに興奮した。

俺は副長を押し倒し ただ本能のままに

副長の唇から流るる紅き液体に魅せられ、 飢えた獣の如く必死に紅い液体を舐めとった。

ちろちろ、ちろちろと舌は乱暴に血を求め、さ迷う。

時には優しく、時には乱暴に愛しい人の唇を、口内を貪った。

血なんて、ただ冷たく苦い鉄のような味のものだと思っていた。

だが、そんなのは違うと今なら思えた。

愛しい人の者だと思うと こんなに温かく甘い優しいものだと感じられた。

だんだんと取り戻されていく理性。

「副長…、えくっ、副長…。本当にすいませんでした…。

でも、大好きです…、副長…。

本当に心から大好きです…。

こんな俺ですが…、っふ、どうか、副長の隣に永遠に居させて下さい…。

愛してます、副長…。」

とその言葉と共に熱くなった体はだんだんと熱を手放していった。

また、ゆっくりと抱きしめられ、耳元でとびきり甘い声で囁かれる。

「…何言ってやがんだよ。

俺はお前を一生俺の隣に置いとくつもりだったのによ。

俺もお前を愛してる。

例え、お前が羅刹でも…

そんなの関係ねぇ。

俺はただお前が好きだ。

お前の髪…。

…いつもと同じ綺麗な紫紺色に戻ってるぞ。」

と髪を優しく撫でられれば自然と笑みが溢れる。





夏最後の夜に貴方と過ごせた事。



永遠に、忘れない。



これまでも、これからもずっとずっと大好きです。








時間設定無視。
平助どした!みたいな…
本当にすいません。(笑)
ふは―!羅刹ネタです。
やってみたかったんだよね!
何で今まで忘れてたんだろ…!
羅刹の絵も描きたいし…
私、頑張る!(笑)

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