土斎+α 片思い土方さん×思い悩む斎藤さん




―この気持ちが、嫉妬というものか。


紡ぐもの、紡がれるもの。


何か大きなものを見つめていると小さな悩みなど消えてしまう気がして。

今夜もそんな小さな悩みを書き消すために廊下に座り、ただ果てしなく広い星空を見上げていた。



―本当に書き消されていくようだな。



この果てしなく広い空では、何もかもが小さな事に感じられて。

徳利から猪口へと酒を注ぎ口に含んでは呑み込んだ。

俺は酒に強く、あまり酔わないのだが、今日は違った。

この雰囲気に酔わされたのだ、きっと。

自分の悩みを書き消していく、妙に心が晴れてゆく感じに。

酒を何度か注いでるといつの間にか徳利の中身は空となっていた。

酒がなくなったので替えを取りに行こうと腰を持ち上げた瞬間。



「おう、斎藤。」

後ろを振り返ると長身の男が大きな徳利を持って佇んでいた。

「一杯やらねぇか?」

持っていた大きな徳利を ぐいとあげるととく、と心地よい水音が響き渡った。

こくん、と首を縦にふり俺はその誘いを受け、

上げた腰をまた戻したのであった。



―チョボチョボチョボ。



暗い夜空に酒を注ぐ音だけが響き渡った。

「有難い、左之。 それでは俺からも注いでやる。猪口を此方に寄越せ。」

と言って微笑を浮かべる左之から猪口を受け取った。

「何故、笑っているのだ。」

未だ、微笑を浮かべる左之に問うた。

そういうとふっと息を漏らしこう告げた。

「いや、斎藤でも悩む事があるんだな、と思ってな。

大方、土方さんの事だろ?悩みあんなら聞いてやるぜ。」

と頭にぽんと左之の大きい手がのった。



―図星だ。この空を見上げに来たのは副長のいや、土方さんの事でだった。



言うか、言わまいか迷ったが左之になら打ち明けてもいいかなと、心の片隅で誰かが囁く。

「…。」

俺がしばらく黙っていると頭を撫でられた。

「いや、嫌なら言わなくていいぞ。 でも、言ってお前の心が楽になんなら言ってみろ。」

優しい言葉についつい 口を開いてしまう…。

「土方さんの部屋に女がいたのだ…。」

「土方さんの部屋に? そんなの、おかしいことじゃねぇだろ?」

確かに、何もおかしいことはなかった。

土方さんは端正な顔立ちをしているため大抵の女には好かれていた。

そして、見かけによらず、優しい言葉、巧みな話は女をさらに酔いしれさせた。

だから、今日も土方さんの魅力に溺れた者が一人、土方さんの部屋を訪ねてきた…。

―土方さんだって、新選組のためにやっている事なんだ。

そう、土方さんがやってるのは情報収集。

新選組に有利になる情報を求めて…。

だから、その情報の代価として土方さんはその女と一晩を共にする。

まぁ、女が望むならば、だが。



―仕方ない事なのに。



そう、頭で理解していても胸は締め付けられるように痛んだ。

こんな感情を抱いてはいけない、絶対に知られてはいけない、こんな醜い感情など。

そう自分に言い聞かせるも、俺の胸の中には 大きなわだかまりがのこっていた。

ちくり、ちくりと胸を指すこの痛み。

嗚咽が走るようなこの感覚。

自分では、止められらず 絶えず、絶えず溢れていく。



―俺はこれの正体を知っている。



―嫉妬。土方さんの部屋に入っていった女への卑しく、醜い妬みの心。



何で、土方さんはあんな女を部屋にいれたんだろう。部屋にいれる必要なんてそもそもないはずだ。

情報だけ得たら 斬り捨ててしまえばいい。

何故一々、女の我儘を聞いてやるのか俺には理解できなかった。



―土方さんも欲求不満なのか…。



あの女はただ土方さんの外見に惚れただけなのに。

土方さんの上辺だけの甘い言葉に弄ばれ、自分だけを愛してくれてると思い込む、

そしてまた愛してくれと愛を求め溺れゆく。

その様はひどく滑稽で。



―馬鹿な生き物だな、女とは。結局は捨てられるのに。



「しかし、俺はあんな女達とは違う。」

土方さんの外見も中身も愛している、だからあんな女達とは違う。

「何が違うんだ?」

不思議そうに俺を見つめる檸檬色の瞳。

自然に口に出ていたらしい。

「あ、いや…。あ…。」

はぁと溜め息を吐く左之。何か悪い事を言っただろうか。

「いや、言いたくねぇならいいが、まぁ、俺は

土方さんの一番はたとえ どんな女を抱こうとも お前だけだと思うけど、な。」

「は?」

思ってもみない言葉が俺に投げ掛けられた。

「なぁに、今言った通りだよ。

土方さんはお前を一番に思ってる。

お前には言わねぇのか、あの人。

まぁ、照れやだからなぁ。言えねぇんだろうな。

俺とか平助には

毎日毎日、斎藤は大丈夫かとか、 奴は元気かとか聞いてくんだよ。

すっげぇ過保護だとは思うんだけどな。

まぁ、大事だから仕方ねぇんだろうな、お前の事。」



―土方さんが…?俺の事を…?



「そう思ってるなら、 何故俺に直接言わないのだ。」

と言うと左之は少し困った様子でこう告げた。

「…だから、ほら、土方さんってあれだろ…?

あ、いや何だっけ、 あぁ、極度の照れ屋だろ?

だからあの人の事だし、直接言いにくいんじゃねぇか?」

「そういうものなのか…?」

照れて直接言えないのは俺にもわかる、が。

何故、俺の事を気にかけるのか、不思議に思った。

「左之、何故土方さんは俺の事を心配するのだろうか。」

「土方さんも大変だな。」

「は?」

「だーかーらー。 土方さんはお前の事が好きなんだよ。

だから、心配したくなんの。お前もそれくらいわかるだろ?」

「土方さんが…、俺を…?」

だんだん理解していく、脳と共に紅く染まる頬。

「な、なぁ!左之…。

も、もしもだぞ!もしも…土方さんがもし俺の事が好きで…、

そして俺も、も、もし土方さんの事が好きだったら…。」

徳利から酒を直接飲む左之を見上げ問う。

「それは両思いだろうなぁ。」

と酒で熱に浮かされた顔を此方に向け笑った。

「ところで斎藤。 お前は土方さんの事好きなのか?」

下を俯きながら呟く。

「あ、あぁ…。 い、いつからかはわからんが…。

最初はただ憧れてただけだったのに、 いつしか好きという感情に変わっていた。

ひ、土方さんは 隊内でも、島原でも 皆に好かれていて 正直、嫉妬していた。

かっこよくて、優しくて 誰よりも新選組を思っていて…。

そんな、土方さんにいつしか惹かれていたのだ。」

あの人の事なら口下手な俺でも次々と言葉が紡がれた。

ふと、我にかえった。

「あぁ、すまない…。 ついつい、熱くなってしまった…。」

ふと熱くなった頬を押さえると左之が盛大に笑った。

「だとよ!土方さん! いい加減出てきてやれよ!ほら!」

と言って左之が後の障子を勢いよく開けると

「こら、止せ原田!!」

と言って障子の中から出てきたのは…?

「ひ、じかた、さ…ん?」

なんと障子の中から出てきたのはさっきまでの話の中の張本人。

「お、おう…。斎藤…。」



―もしかして、ずっと聞いて、た?



「ず、ずっとそこに…?」

土方さんは下を俯きながら言いにくそうにしながらもあぁ、と短く答えた。

「あ、それもそうなんだが…。そ、それより斎藤。

さっきの話だが…

お前、俺の事その…好きなの、か?」

恐る恐る聞く土方さんに俺も疑問を口にする。

「ひ、土方さんこそ、 俺の事そっ、その好きなんですか…!」

互いに自然と顔を紅くさせる。

そして、2人が口を開いたのはほぼ同時。



「「好きだ。」です。」



想いが紡ぎあい 2つの赤い糸が1つになった。

蝶々型に固く結ばれ、 永久にほどけない2人。

なぜなら、永遠の言葉を口にしたから。

「好きだぜ、斎藤。 いや、一。」

「土方さん、俺もあんたの事が誰よりも大好きです。

これからも末永くよろしくお願いいたします。」

「あぁ。」

と俺達は土方さんが出てきた部屋へと今までの想い、そしてこれからの事を語らうために帰っていったのであった。

「はぁ―、よかったな。」

「まったくよかったな、じゃないでしょうが。」

と低く怒気のこもった声が土方さん達が入っていった隣の部屋から聞こえた。

「すまねぇな、総司。 ずっと待たせちまって。」

と言うとガラと乱暴に障子が開かれた。

「…一君にあんな優しくして…。

僕を嫉妬させて、楽しいですか…?

僕はちっとも楽しくありませんでしたけど。

いつ斬り込みに行こうか、考えてたくらいですから。」

と冷たく言い放たれた。俺は子供をあやすように言う。

「別にお前を嫉妬させるために優しくしたわけじゃねぇよ。

ただ、前の俺達みたいだなと思ってな。

懐かしくなって、 ついつい口出ししちまった、ってわけだ。」

と言うと 愛しい奴の目から 一筋の雫が滑り落ちた。

「…左之さんは そういうとこ、いっつも狡い。

いっつも、自分だけ好き、みたいな顔してさ。

僕だってこんなにも好きなのに。」

と言って強い力で抱き締められた。

「しょうがねぇだろ。

好きなんだよ、お前の事。

だから、俺以外の男になんて惚れたりするなよ?」

と奴の瞳をのぞきこむ。

「…そっちこそ。 浮気なんてしたら、 斬り刻みますからね。」

と笑っていう愛しい奴。

「じゃあ、俺達は土方さん達の永遠を祈って一杯でもやるか!」

と高々と徳利を持ち上げるとふと唇に柔らかい感触。

「…人の事なんて考えてないで、貴方は僕の事だけ考えてればいいんですよ。

だから、今日の酒は僕と左之さんの永遠を祈って…。乾杯。」

「乾杯。」

熱い酒が喉を駆け抜けていくこの感じ。

好きなものと飲むからこそのこの高揚感。



いつまでもあなたと私、私と貴方に赤い糸を紡いで。





長い。ぐだる。ぐだる。

土斎とか言っときながら 原沖になってしまった。

原沖は大人な駆け引きができそう。いつか書きたいな。


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