土斎 塾の室長土方さん×お受験一ちゃん。受験戦争真っ只中。




―俺はこの戦に負けるわけにはいかない。


想い重なるその瞬間まで。(未完)


12月の末日。

俺は受験戦争の真っ只中にいた。

「ここの問題は必ず狙ってくると思うから、暗記しとけ!」

「ここからここまで、テストだ!出来ない奴は今日は帰さねぇぞ。」

暗記、計算式、日本史、はたまた海外の地図まで 全部暗記。

そんな暗記できるやつなんているのだろうか。

できないのではないか。



―しかし、俺もこの戦に負けるわけにはいかない。



負けず嫌いな性分 故に自分で言うのもなんだが、勉強は人一倍やった。

暗記で残ったことはないし、テストでもいつも満点に近い点を死守していた。

勉強、勉強、勉強。

毎日が机に座って終わる日々。

楽しいことなど、全くない日常。

受験に受かるという なんとも現実味のない目標をかかげて 俺は走り続ける。

受かるだろうか…。

不安だけが俺の頭の中を渦巻いていた。



「斎藤。」



まるで水中にいるかの ように 頭に声が響き渡った。

ゆっくりと瞼を開けると そこには見知った人。



「…、室、長?」



はっとして起きるとそこには室長がいた。

「あっ、すいません!寝てて、、、。」

「もう、ここ閉まるぞ。」

きょとんとする俺を見て 室長は壁にかけてある時計を指差した。



23:50?



ごしごしと目を擦った。

やっぱり時計は23:50。

「えっ!えぇ!」

心底驚いた。

23:50!?

生徒は22:30には 帰されているはずなのだが…。

いつもの俺だったら この時間は勉強のためにまた机に向かっている時間だ。

「すまねぇな、斎藤。 俺も他の塾の室長と電話しててな。 気づいてやれなくて…。」

心底申し訳なさそうにする室長。

「いえ、これは俺の責任です。 こちらこそ遅くまでいてすいません…。」

時計を横目で見ると

「23:50?って事は…。 あっ…。バス…。」

確か最後のバスは…。

ちょうどこの時間、 23:50だった気がする。

あ、もう過ぎてる…。

カチッと時計の針が動いた。

俺の家は田舎のため 自宅まではバスしか通っていなくバスがないと帰ることができない。

そして、 生憎俺のうちには車もない。

迎えに来て貰う事も自力で帰ることも無理だと考えた。



―どうしたものか。



カバンにテキストやルーズリーフを詰め込みながら 色々と考えを廻らせた。



―野宿…。



たった一つ浮かんだのはそれだった。

しかし、今の俺にはホテルなど借りるお金も無く、近くに頼れるような友達もいない。

野宿などしたことがなかったし、これから先も するつもりはなかったが

…仕方あるまい。

この12月の寒空の下寝るか。



―風邪をひかないといいんだがな。



自分が寝てしまったのだ。と言い聞かせ、とりあえず帰る支度を続けた。

最後のプリントを カバンに詰めていると 室長の手が俺の手を制した。

「斎藤。 お前、今日どうするんだ?さっき、バスがないって言ってただろ。

親御さんでも来てくれるのか?」

「いいえ、うちには車がないもので…。



―野宿です…。」



室長は、思ってもいなかった返答だったのか目をぱちくりさせていた。

「?」

室長は首を傾げたので 俺はもう一度言った。

「野宿です…。」

聞こえなかったのかもしれないのでもう一度言ってみた。

その後、やっと俺の言葉を理解したのか、室長は苦笑いを浮かべながら、俺の頭にふわりと手をのせてきた。



―苦くも甘い煙草の香り。室長の香り。



その香りに不意に酔わされた。

「おい、斎藤。」

「はい。」

なんだろうか。

やはり野宿はその土地の管理人に許可をとらないといけないのだろうか…

「明日は学校休みか。」

「はい…。そうですが…。」

それがなんなんだろうか。

「じゃあ、帰るぞ。」

ふわりと笑う室長に 疑問符を浮かべる。



―理解力は人よりいいはずなんだが。



「いいから、帰るぞ。」

「あっ、いや俺には さっき、帰る場所はないといったはず何ですけど…。」

はぁと溜め息を洩らした。何か悪いことでも言っただろうか。

「ったく、おめぇは頭がいいと思ってたがとんだ馬鹿だな。」

苦笑いを浮かべながら話す室長。

「俺がば…か……?」

馬鹿なんて言葉一度も言われたことがなかった俺はその言葉を理解するのに時間がかかった。

理解が出来ないでいると 室長は困ったような顔をして笑った。

「大丈夫か、斎藤。

まぁ、どうしても野宿してぇならすりゃいいが、外は雨だ。

もうすぐ受験なんだし、 風邪引いたら困るだろう。俺のうちに泊めてやるよ、って言ってんだよ。

ほら、早くしろ。」

そういってブラインドの外を覗くと

「雨だ…。」

バケツをひっくり返したような雨という表現をよくするが外はまさにその状態。

俺が外を見てぼーっとしていると

「ほら、ここ締めるから、早く出ろ。」

と俺の手を引っ張った。

またふわっと室長の香りが香った。



―好きだな、この香り。



室長は俺を自分の車に乗せ、待ってろと俺に一言、塾の鍵を閉めに駆けて行った。

申し訳ないな、と室長の背中を見送りながら 自分の胸中を見返した。

今俺の中にあるのは 嫌悪感と安全な場所で寝れるという安心感。



―本当にいいのだろうか。俺なんかを家に入れて。



困らないのだろうか。

もし、土方先生1人ではなかったら…。

そう思うと体が強ばっていった。

俺は昔から極度の人見知りだった。

いまでこそ、どうにか人と話せるようになったが

はっきり言って 初対面の人間と話せる自信など微塵もない。

こういう時に 総司や平助達を羨ましく思う。



―まぁ、これが俺なのだが。



そんな事を思っていると バタンと前のドアが開いた。

「おう、斎藤。 家には連絡したか。」

はっと気付くがその後の行動に移せない。

「どうした、斎藤。 携帯、家にでも忘れたか?」

眉間に皺を寄せ綺麗に笑った。

笑顔の美しさについつい見惚れてしまう。

「斎藤?」

「あっ…!はい! 俺、携帯持ってないんです…。」

そういうと室長は高らかに笑った。

「よく今の時代生きてるよな、お前! ほら、貸してやるよ。」

といって渡されたのは スーツと同じ黒色の携帯。

渡された携帯をなんとなく見ていると

携帯についてたストラップは

以前俺が家族で旅行に行った時にお土産として土方先生にさしあげたストラップだった。

「土方先生…、使っててくれたんですね…。」

凄く嬉しかった。

憧れの人が自分があげた物をつけていてくれたという歓び。

心の中で言ったつもりだった言葉は実際は口に出ていたみたいで。

そういうと土方先生は 顔を朱色に染めながら

「ま、まぁな。 そのストラップ可愛いしな。」

と言ってストラップを指差した。

実はこのストラップ。

土方先生と俺のだけおそろいなのだ。

総司達にはまた別の物を配った。

しかし、総司にはおそろいのストラップを見られてしまい

「一君、趣味悪い。」

と凄く嫌そうな顔で言われた。

それは俺の買ったものに対しての否定なのか、

土方先生にあげることに対しての否定なのか。

「さ、斎藤! いいから電話かけろ!」

さっきよりもっと朱色に染まった顔をこちらに向け言った。

「は、はい!」

電話をかけおわり

「ありがとうございました。親にはきちんと伝えました。」

といって携帯を返す。

じゃあ行くぞ、と土方先生は車を走らせた。

車に乗っている間は 他愛ない話が繰り広げられた。



―やっぱりは土方先生素敵だな、ふとした瞬間に気づくとまた一つ室長への憧れが増えていった。

俺の土方先生への憧れは病的なものだと前言われた事がある。



―確かにそうかも、な。



その黒く艶やかなスーツも苦くも甘いたばこの香りもそして深く刻まれた眉間の皺も。

彼のどんな命令にも従順でありたいと願う自分がいるのも確かだ。

しかし、俺にとってそれは切なる願いであり、

何もかもが俺の憧れで 何もかもが俺の好きなもの。

「ほら、斎藤着いたぞ。」

と言って室長は俺の方の車のドアを開けてくれた。

――――――――――――つづく。(未完)



未完です。蜜柑です。(笑)

この後をどうするかスゴク考えてます。

なので、思いついたら書き足します!

てか、呼び名がバラバラでスイマセン!

土方先生=室長です。

個人的にはどっちも使いたかったのでどっちも使わせてもらいました。

ごちゃごちゃしててスイマセン!


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