シリアス 土斎  死ネタ注意!




―貴方を追って何処までも。


貴方の背中を追いかけて。


あんたはいつも狡い。
副長たるもの隊士との約束が守れなくて
どう隊をまとめていけるだろうか。
あの日交わした約束。 最後の言葉。


「なぁ、斎藤。」
「はい。何ですか、副長。」
何やら神妙な顔をした後、すぐ呆れたような笑みを浮かべていった。
「釦掛け間違えてるぞ。」
といって副長の手が俺の胸元に迫ってくる。
「あっ、いや自分でできます…。」
といって自分で胸元の釦を直そうとするが
「直させろ。」
と副長は凛とした声でいい放った。
「はい。」この声に言われてしまうと昔から何も逆らえない。
副長は釦を直すためか
さっきよりも俺の近くに いる。
―近い。
顔と顔の距離は約一尺。
互いに息のかかる距離だった。
近くで見ると更に綺麗な顔だななんて思いながら
いや、顔だけではない。
女性でもまずもっていない髪の毛の艶やかさ。
切れ長の紫紺の目。
何もかもが特別で 何もかもがこの人の一部。
そう思うと今すぐにでも 手が伸びてしまいそうで―
「おう、出来たぞ。斎藤。」
伸びかけた手を引っ込め
あんなにも近かった距離はもう手を伸ばして
ギリギリ届くかの距離になってしまった。
「あ、ありがとうございます。副長。」
「ところで何か用ですか?」
自分の考えていた事を 遠くにやるように副長に話しかけた。
「おう、そうだったな。ちょっとこい。」
と言って外に行くよう促される。
―一体何の用だろうか。
そして突然副長はぴたっと止まった。
急に止まったので少し足のバランスを崩してしまった。
「あっ…。」
「おい、大丈夫か?」
と言って手を差し出された手をとり元の状態に戻る。
「ありがとうございます。」
ほんのり優しい香りが広がった。
「見てみろ。」
そして俺達の目の前にあるのは一本の枯れた桜の木。
「花は咲いてないですね。」
「そりゃ…まぁ、冬だからな。」
そういうとはらり、はらりと花びらのように純白の雪が舞い降りてきた。
「なぁ、斎藤。桜って綺麗だと思わねぇか?」
「思います。儚く、美しく咲いてから散りゆくまで美しく、
武士の生きざまの様だと感じておりますが…何故。」
雪の降るこの時期に聞くのだろうか。
「俺はお前に約束しようと思ってな。
まぁ、約束って言っても一種の自分へのまじないみてぇなもんだ。」
そんな気にしないで聞いてくれという。
「まじない…?」
まじないとは…?
「来年の春。俺はここでお前と共にこの桜が綺麗に咲いているのを見る。
約束だ、斎藤。破ったら承知しねぇからな。」
「…はい。」
その言葉は俺にはたまた副長自身に

゛死ぬな゛

と言っているように聞こえた。
「では副長。俺からも約束です。」
「あぁ、なんだ。言ってみろ。」
「副長が逝く時は俺も連れて行ってください。俺を1人にしないでください。」
気づくと視界が潤んでいた。
おかしい、おかしいというように何度も、何度も拭っても出てくる雫。
するとふっと抱き寄せられた。
暖かい温もり。生きている温もり。
「縁起でもねぇ事言ってんじゃねぇ。」
副長の大きな手が 俺の涙を優しく拭う。
「俺とお前はいつまでも一緒だ。
お前が望むのなら何処へでも連れていってやろう。
だが…だから、死ぬな。 これは副長命令であり、
土方歳三、一個人の願いでもある。
お前と俺はいつまでも一緒だ。
先になんて逝かせねぇ。」
そういって苦笑いする顔にどれだけ俺が救われたのかあんたは知っていますか?
俺はその後会津に残り、 あんたとの約束を守ろうと必死に戦ったのに…。
俺は遂に1人なってしまった。
俺はあんたと別れたこの桜の下で待っているのに。
なのに、あんたは現れない。
俺の事など忘れてしまったのですか?
この桜の下で契った約束を忘れてしまったのですか?
今日も舞い散る桜の下で散るな、散るなと願いを込めて。
桜が葉桜になる少し前。


―あんたが流れ弾に当たって死んだと風の噂で聞きました。


春の移ろう時の中。
貴方を追ってどこまでも。
今日も散り逝く桜の中に


俺の胸には一際紅い桜が 衣を染めあげていた。



死ネタです。死ネタです。斎藤さんが逝ってしまわれました。
斎藤さんはどこまでも
副長至上主義者で
遂に愛ゆえに追って逝ってしまうという…。
駄文です。ごめんなさい。感想とかお待ちしてます。

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