沖斎 現パロ シリアス 車椅子総司×介護人一君




―一君、いつもありがとう。


二息歩行。


「一君、いつもありがとう。」



そういうと、君は 車椅子をゆっくりと 停めて君は嬉しそうに笑った。



「あぁ、構わない。 俺が好きでやっていることだ。」



僕が車椅子に乗ることになってもう半年。

僕は昔から体が弱くて 学校に行くにも 一君に色々手伝ってもらっていた。

今まではそんなに手伝ってもらったことはなかったけれど

いつものように、 ただいつものように病院に行った、ある日のこと。

医者に言われた一言によって全てが崩れ去った。

医者は僕にはっきりと告げた。 ゛もう自分の足では歩けない゛と。

僕の足が使えなくなってからというもの、

一君は毎日毎日 僕の足代わりとして寄り添ってくれている。



「一君、本当に嫌じゃない?」



不安げに聞くと そっと目隠しをされた。



「だから、気にするなと言っただろう。

これは単に俺がやりたいと思ってやっていることだ。お前は気にするな。」



と言ってぱっと目隠しを外されると僕の目の前には 青く透き通る海が広がっていた。



「海の底は誰も見たことがないそうだ。」



「へ?」



突発的な事を言うから 思わず聞き返してしまった。



「空の果ても 誰一人として見たことがないらしい。」



「え、どうしたの?一君?」



なんで、そんなこと言うの?

暫く一君は黙ってから 淡々と言葉を放った。



「誰にでも可能性はある、ということだ。」



まだ、よく意味がわからなくて首を傾げた。

結局、何が言いたいのだろうか?



「どういう意味、それ?」



「お前のその足も いつかは俺なんかに 頼らなくても やっていけるようになるってことだ。

だから、俺はその時まで お前の足となろう。」



そういうと一君は悲しそうに笑った。



―もし、僕の足が治ったら…?その先は…?



思わず、言葉に出てしまった。



「その先は、一君…どうするの?」



凄く驚いた顔をする一君。



「いや……。 そうなったら、 お前に俺は必要ないだろう…。」



凄く哀しそうに言う君。



「何でそんなこと言うの…?」



―何で、一君。



届きそうで届かない このもどかしい気持ち。

きっと、君は誤解してる。だから、はっきり伝えなきゃ。



「一君、お願い。 僕がもし治ってもずっと僕の側にいて…。」



そう言うと、一君は苦笑いをした。

ねぇ、一君。君は何を望んでいるの?

一君は少し黙ってから 重い口を開いた。



「俺なんかいたところで 邪魔なだけだろう。」



自嘲気味な言葉と 何も映さない虚ろな瞳。



「なんで…そんなこと…。」



「…総司。 俺は嫌な奴なんだ。」



「一君は全然嫌な奴じゃないじゃない。 優しいし、色んな人に気づかえるし…。

何より、こんな僕にずっと付き合ってくれているし。」



はははと軽く受け流され、一君はまた喋り出した。



「俺は…俺は、 お前が…、 お前の病気が治らなければいいなんて願ってしまうんだ…。」



「へ?」



それって、どういう意味…?



「だって…、もしも お前の病気が治らなかったら お前はずっと俺の側にいてくれるだろう…?」



まるで子供のように 涙を眼一杯に溜めて 一君は壊れ物を見るようなぎこちない視線を此方へと向けた。

一君の瞳に映った僕は一君の瞳の雫によって 幾らか歪んで見えた。



「一君。 僕、一君の事大好きだよ。」



そう言って一君に口付けた。

君に拒否されるとばかり思ってた。

けど、実際は違った。

そっと手を絡み合わせてくる想い人。

ああ、抑えていた感情が 溢れだしていく。

ただ止めどなく溢れて、 一つになる思い。



「総司、俺も昔からお前を好きだ。」



さっきまで、 ぎこちなかった腕は今は 強く僕の背中を抱いている。

僕の病気が治っても 君と僕はいつまでも一緒。それは何年経っても同じこと。



「総司、そろそろ夕食の時間だ。 今日は外食にでも行こうか。」



と僕に微笑みかける。



「うん。 駅前に 美味しいパスタ屋さんが できたみたいだから そこに行ってみようよ!」



と僕は彼に言った。



「あぁ。」



あの時より一君は笑うようになった。

この自然な笑顔を壊していたのは 全部僕のせい。

今はだって…、 こんなにも綺麗に笑えるでしょ…?

知らないうちに僕が一君の足枷になってたなんて知らなかったから。

だから、そんなのはもうごめんだ。

今はいやこれからはずっと彼に尽くそうと決めている。

そういえば、 足枷と言えば 僕の足は一君のお陰で 順調に回復し、今では 自分で歩けるようにもなった。

医者も僕の回復の早さには心底驚いていた。

医者には愛の力で回復したんでしょう、なんて非現実的な事を言われた。

これだって、全ては一君のお陰。

登校やリハビリいつでも 僕の一番傍に、一番近くにいてくれた。

どんなときでも。



「じゃあ、総司。行くぞ。」



一君が僕へと手を伸ばした。

ゆっくりとした手つき。

昔から変わらない君のしなやかな手をやんわりと握った。



「うん。一君。」



僕が笑うと一君も連れて笑った。玄関を出ようとすると一君に止められた。



「総司。」



「なぁに?」



「店まで、一緒に歩いていかないか?」



「歩いて?」

嬉しそうに笑う一君。

「二人三脚みたいに二人一緒に道を歩いてみたい。」



「いいよ。」



一君の手をとり 僕らは店まで息を揃えて 二人三脚をしていった。



いざ、進む先は 二人で一つ。

一人で二つ。

これからは 一つの道を二人で歩んでいこう。

君と僕で永遠に。









題名はボカロから借りました。
すみません。

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