パラレル人形師一君×魔術師総司




―トリックオアトリート?


漆黒と橙の誘惑。


俺は幼い頃から人形が好きだ。

それは父親の職業柄のせいなのか。

俺が起きると隣には オーシャンブルーの くりくりと愛らしい目。

レモン色の髪。

ピンクとホワイトの ひらひらのスカート。

それにほんのり紅い頬。

父親が俺のために作ってくれた人形が俺に寄り添って眠っている。

俺の父親はこの街で ただ一人の人形師だった。

以前までは、この街にこそ一件しかなかったが 外の街には沢山あった。

人形屋は今は不景気のためか、内外合わせてうち一件となってしまった。

以前から、注文が絶える事はなく、それなりに人気があったので、潰れることはなかったが。

そして、父親が他界した今俺がこの店を営んでいる。



「ふぅ。やっと出来たな。」



と服の袖で汗を拭う。

出来上がった人形を見ながらついつい笑みが溢れてしまう。

この人形がどんな人に買われるのか。

この人形がどんな風に愛でられるのか。

考えるだけで顔が自然と綻んでいく。

ふと、カレンダーを見上げると今日中に作らなくてはならない人形があと一つ。

何故か、いつもより注文が多い。

いつものノルマは多くて 一日に二つ。

しかし、今日は注文が三つも。

何故だろうかと もう一度カレンダーを見上げると カレンダーには10月31日と記してあった。



「…今日はハロウィンだからか。」



そう。今日は10月31日。

ハロウィンだ。

ハロウィンの始まりはケルトの…と昔 父親に聞いた気がする。

かなり話を省く事になるが、要するにゴーストを追っ払う日なわけだ。

そんなに日に人形を頼むなんて、彼らしかいない。



―魔女、魔術師。



彼らに違いない。

毎年毎年魔女や魔術師は この日になると ゴーストを追い払うためにパートナーとなる人形を ここに買いにくる。

本来ならば人と魔女、魔術師が逢うことは許されていないのだが…。

俺の家は、 俺の家だけは特別だった。

人形師という家柄魔女、魔術師と付き合うのは当然の事だった。

そんな父親が恋に堕ちたのは 今はもういないが ちょうど人間界に来ていた魔女だったという。

その二人は結婚し、 その間に生まれたのが 俺なわけで…。

つまり、俺の母親は魔女ということ、だ。

母親はちょうど パートナーになる人形を探しに人間界に来ていたらしく、

そこで父親と逢い、結婚もしてしまったので この店はいつからか ハロウィンの日には魔女、魔術師が沢山やってくるようになった。



―早めに仕上げなくては。

そんな事を思ったと同時にカラン、とドアの上ベルが音色を奏でた。

「はい。」と言って 後ろを向くと人影はなく、

ふぅ、と強い風が店いっぱいに溢れだした。

気付くと耳元には アップルグリーンの瞳を持った少年が立っていた。



「 こ ん ば ん は 。 」



そう耳元で甘く囁き 俺の首へしゅるり、と手を回してきた。

抵抗したいのに 何故か声が出ない。



「 ご め ん ね 。 い ま き み に ち ょ っ と し た ま ほ う を か け て る ん だ 。

だ か ら 、 き み は し ゃ べ れ な い 、ご め ん ね。」

くすりと笑うアップルグリーンの瞳の少年。



―誰だ、この少年は…?



振りほどこうにも金縛りにかかったかのように体が動かない。



「 あ 、 ぼ く の じ こ し ょ う か い ま だ だ っ た ね 。

ぼ く は ま じ ゅ つ し の そ う じ だ よ 。 」



―心が読まれた…?



するとその少年は俺の首筋に顔を埋めてきた。

「 う ん 。 ぼ く は き み の こ こ ろ が よ め る 。

ま じ ゅ つ し だ か ら ね 。

そ れ よ り き み 、 は は さ ま が い っ て た と お り

す ご く き れ い だ し い い に お い が す る 。 く ん く ん 。

さ ら さ ら だ し ふ わ ふ わ な か み 。

お ん な の こ み た い に ち い さ く て し ろ い か ら だ 。

か わ い い ね ? 」



と言って俺の肌を怪しげに這っていくしなやかな指。

そして、俺の額に冷たい手を当てた。

「 き み 、 は じ め っ て い う ん だ 。

か っ こ い い な ま え だ ね 。

じ ゃ あ 、 は じ め く ん っ て よ ぶ ね ?」



俺は何も話していないのに奴は何故か俺の心を読み取っていた。



―何故だ、これが魔法なのか。



俺が動揺していると 奴は半ば強引に話を進めていた。



「 あ 、 ほ ん だ い な ん だ け ど さ 。

き れ い な き み を み る の も

こ こ に き た ひ と つ の も く て き な ん だ け ど さ 。

ぼ く ね 。

こ こ に た の ん で い た に も つ を と り に き た ん だ 。 」



とひょいとカウンターに乗り上げてきた。



「あ、あの…。

まだ作り終わってないのだが。後少しだけ待っていてくれるか…?」



そう言うと少年は困った顔をした。



「ぼ く 、こ ま る ん だ け ど な … 。

は は さ ま の い い つ け で

つ き が ま ぁ る く な る ま え に き み と に ん ぎ ょ う を

つ れ て か え っ て き て っ て い わ れ た か ら

ぼ く そ ん な に じ か ん が な い ん だ け ど … 。 」



「そうか…。 確かに時間がないな。」



窓の外を見ると オレンジとパープルのグラデーションの月が満ちようとしていた。



「そうだな…。 俺と人形を…。 俺と人形…? 俺と人形!!」



少年の方を向くと少年は怪しげに笑った。



「 そ う 。

き み と に ん ぎ ょ う を も ら い に き た ん だ 。 」



と言って 強く少年に引き寄せられた。

少年と俺の距離はあと1cm。

「 む か え に き た よ 。 ぼく の お ひ め さ ま 。

ぼ く は き み が ぼ く の お ひ め さ ま に な る の

ず ぅ っ と ま っ て た ん だ か ら 。

ち な み に い ま ぼ く が き み に き す を し た ら

き み は ぼ く の お ひ め さ ま に な る 。

き す し て も い い ? 」



目をキラキラさせながら あと1cmの距離は縮まっていく。



「近い…。」



気が付くと声が出ていた。



「 き み の き も ち が き き た い ん だ 。

ぼ く に き み の き も ち を お し え て 。 」



こいつは、狡い。 そう思った。



「心がよめる癖に…。」



そう言うと更に距離は縮まった。

俺は最初こいつを見た時から このアップルグリーンの瞳に見つめられてから 心はこの上なく揺れ動いた。

見つめられる度高鳴る鼓動。

いつからか、かけられた魔法はチョコレートのように甘い。



「知らん!」



そう言って重なる唇。

魔術師の少年の口元が少し笑ったのは それは人形師には内緒の話。

魔術師と人形師の契約は 切っても切れない口約束。

人形も皆笑って 彼らの出立を喜んだ。

ハロウィンの魔法。

これはゴースト達の悪戯か、それとも…?



「トリックオアトリート。」



魔術師を真正面に見据えながら人形師は言った。

「トリックで。」

そう笑って言えば 互いに唇が重なりあった。

カボチャのランプが 俺達を魔法の世界へと誘う。

さぁ、行き先は何処か。

遠き空を見上げ思う。

ハロウィンの夜、 とある魔術師と人形師は

オレンジとパープル混じりの甘い月の中に溶けていった。











パラレル、パラダイス。 (笑)

皆、ハロウィンだよ!

てか、魔術師ネタは総司の中の人から。

主人公だしね。

そこは使わなくちゃ。

ということで、お粗末様でした。(笑)

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